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留萌の四季

ヤナギランの捜索

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道道稚内豊富線に群生するヤナギラン

北辺の野に咲く郷土種の花を探すという、私の小さな事業は、今年で3年目を迎えることになりました。
遠別金浦の原生花園で、一日いっぱい、しとしとと雨の降る中、濡れたエゾカンゾウを撮ったのは、昨年の6月20日のこと。
今年は、5月から6月にかけては、仕事が詰まっており、趣味の時間を取れないまま、7月を迎えることになりました。
子供たちを暑寒別岳の登山に連れて行ってやる約束。
自分との約束は、増毛側から暑寒別岳~南暑寒別岳~雨竜沼湿原~南暑寒荘の縦走を果たすこと。
なかなか、野の花たちに会えない中で、また、凍る寒さのひと冬を越し、今、季節を謳歌している彼女たちを、咲く場所ごとの風景とともに思い起こしています。
6月の初め、ひばりが空高くさえずる下、数日間だけ、薄黄色の花芯の周囲に、白い小さな花びらをつけ、あっという間に変身して、稲の穂のようになってしまうハマハタザオ。
夏の鮮やかな紅色の顔を、ひと冬北の風雪に晒して、しなびた茶色の梅干しのようになってしまったハマナスの実。
黄色い可憐な花を数多くつけ、潮風に一斉に揺れているセンダイハギ。
とうとう種子をとらせてくれなかった、ピンク地に可憐な紋様を浮かび上がらせているハクサンチドリ。
そして、最初に巡り合った時から、心ときめかされた、たった1本のヤナギランの紅色の花。
今年は、心魅せられた、このヤナギランを捜索してみようと決め、一番色鮮やかな7月下旬から8月上旬にかけて、休みごとに車を走らせました。
走行距離、約2千キロを駆け、6ヶ所、しかも、群生しているのを、見事に探し当てました。
最初と合わせて、次の7ヶ所を特定しました。
1.稚内メグマ原生花園の、国道238号と砂浜との間。
2.道道稚内豊富線の上修徳小中学校の校門より70mほど稚内寄りの道端(群生)
3.幌延町より出発し、道道稚内幌延線が、道道豊富浜頓別線と交差する手前、2キロほどの道端(群生)
4.道道円山天塩線を、天塩市街より4キロほど進んだ道端(群生)
5.道道築別炭鉱築別(停)線より上遠別霧立線へ入って、1キロほどの道端(群生)
6.道道暑寒別雨竜停線に入り、暑寒ダムの手前1キロほどのところ。(群生)
7.道道旭川多度志線から下幌成へ抜ける道路の途中の右側の丘の上(大群生)

どの個所にも共通なのは、平たんな地形で、日当りがよく、周囲は雑草地で、道沿いを探した事もあり、道からそんなに離れない所で、数十本以上の単位で群生していました。
国内で有名な群生地は、長野県の乗鞍岳高原、また海外では、テレビ放映されていた、比較的近いサハリンの草原があります。

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サヤから弾けた羽毛状の種子集合体
こんなに飛び飛びに、地球規模で群生するヤナギランは、「一体どんな生態を持っているのだろうか」という素朴な疑問が湧いてきました。
まず、原色植物図鑑で調べてみました。
アカバナ科に属し、背丈は50cmから1.5m、茎は枝分かれせず、柳のような葉が多数互生する。
花は、総状(房状)花序を作って、多数下から咲き、花径3cmほどで、花弁4枚、雄蕊の先は4つに裂けて反り返り、自家受粉できないように、雄蕊が先に熟する。
本州の中部以北や北海道に分布する。原産はヨ-ロッパ。果実は1ミリの三分の一もないほど小さいのに、2cmもある大きな冠毛をつけていて、それが一つの鞘の中に60個くらい集合している。
はじけた時は、60個全体で羽毛状を形成する。
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ヤナギランの種子 大きさは1mmにも満たない
もっと資料が欲しいと、捜索を続ける内に、アメリカのある昆虫学者のフィルドノ-ト記録と種子散布の生態学の本を見つけることができました。
ノ-トは、アメリカ北東部の大西洋に近い、メイン州での観察記録です。
「私達は、小屋の残骸に火をつけました。腐食土の中に眠っていた、無数の種の生命を奪った。
最初に根付いたのは、ワシントン州のセントへレンズ火山の噴火後の時と同じく、ヤナギランだった。
冠毛のパラシュ-トをつけた種は、遠くから風に運ばれて飛んでくるのだ。
毎年、夏毎に、移住のための派遣隊を、ウイルソン川に沿ってある群落や、ニューファウンドランド島から送り続けているのだ。
焼け跡以外の土地に着地しても、守りを固める地場の植物に打ち負かされるのだ。
ひょろりと、1mほどに伸びると、燃えるように赤い花序を伸ばし、緑の葉の中で、炎のように輝きだす。
夜は、スズメバチ蛾を引き付け、日中は色とりどりのチョウやハチが訪れる。
ホウセンカやトウワタ同様、ヤナギランは蜜が豊富な花だ。」
9-4_thumb.jpg また、種子散布の生態学の本には、次のような記述がありました。
「植生の遷移は、繁殖の基になる種子や根茎も全くない所(無植生)から始まる一次遷移と、伐採跡や放棄された畑などから始まる、二次遷移とがある。
一次遷移が観測できる場所は、新しくできた島や溶岩流跡地、ボタ山など限られた場所しかない。
北海道駒ヶ岳の溶岩流跡地の観察では、噴火後6年後に侵入したものは、風散布型が70%で、なかでもウマスギゴケ、ススキ、オオイタドリの固体数が多く、木本植物では、シラカバ、バッコヤナギが目立った。
その後、少しずつ風散布の割合は減少し、逆に動物散布型が増加していった。」

以上のことから、ヤナギランのル-ツや生態について、私の考えを纏めてみました。

1.原産はヨ-ロッパ地方で、地球規模の偏西風に乗り、今は世界中の北半球の高原性の気候地帯に繁殖している。ユーラシア大陸を経て、アメリカ大陸に到達したと考えられる。日本の乗鞍高原に定着したヤナギランは、日本列島の位置を考えると、やはり偏西風に乗りアジアから飛んできたのではないかと推察します。
2.冠毛のパラシュ-トは、一つのコロニ-から、最大でどれだけの距離を飛び続けるのだろうか。海を渡ることを思うと、少なくとも100キロ単位であろうと考えます。
3.種子の定着には、通常なら、焼き跡が最高条件で、見つけた場所は畑や民家の近くにあり、その可能性が高い。
4.自家受粉できないシステムを補うために、昆虫を引き付ける、蜜蝋や鮮やかな花弁を持っていることに、生命の神秘を感じます。
5.根茎を調べてみると、地中30~50cmほどの所を、地表と平行に、数mの長さで伸びています。その地下根茎の数ヶ所から、地上に向かって茎が伸びており、この地下根が群生を可能にしているのだろうと推察します。

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ヤナギランの地下茎
20~30cmおきに地下茎を立ち上げる
7~8月にかけて、道内の田舎道をドライブする時、ゆっくりと走っていれば、どこかの道端にヤナギランの鮮やかな紅色が見えてくると思います。
車を降りて、こんなル-ツを持っている花を観賞してみてください。
昨年、家内の母にヤナギランを見せに行った時、根の一部を掘って来ました。
風ではなく、車で運ばれたその根は、札幌の母の庭に植えられ、ひと冬を過ごしました。
先日電話の時に聞きますと、小さいながらもピンク色の花序をつけ始めたとのことでした。

平成6年7月起稿
小 杉 忠 利

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