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留萌の四季

北辺に咲く野の花

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メグマ海岸線の土手に只ひとつ咲くヤナギラン

道端に咲く黄色のタンポポが目立つ頃になると、日当たりの良い海岸線の草付き斜面に、すらりと伸びた茎をもつ、橙色の花が、点々と咲き始める。遠くから見ても、「ああエゾカンゾウが咲き始めた」とすぐ判る季節に、今まさになろうとしています。
今年も、この花の咲く少し前の5月初め頃より、北の原野に咲く「野の花」を撮りに、時間を見つけては走っています。
昨夏の初めより、野に咲く郷土種の草花を探し、出来れば種子を採取して、増やせたらいいなという、花の夢に向けて、一人で動き始めました。
留萌管内は南北に長く、海岸線の斜面は北西に面しているので、草木にとっては、強風と塩害という大敵があり、これを克服した種が山野に根付いていることになります。
苛酷な環境に生きる、北辺の郷土種を観察する、気ままな探検をすることにしました。
稚内まで北上し、草の茂る人の入りにくい場所を見つけて、観察を始めると、目に入るのはクロ-バ-やタンポポで、その他は名前の判らない草、草、草・・・・でしかありません。
これは困ったなと、草の中に座り込んで、じっくり眺めていると、陰に隠れてそっと咲いている可憐な花や、小さな蕾を持っている草が、少しずつ見えるようになってきました。
しかし、肝心の草花の名前は全然判らないし、まして種子になるのはどこの部分が、何時なるのか全く不明です。
とりあえず、接写で葉や花の様子を記録しました。
花が咲いている内は、何とか見分けがつきますが、散ってしまうと、雑草の中の只の草になってしまい、見分けがつかなくなります。
そこで、観察する草花を、痛めないようにして、そっと番号札をつけました。
デスクに戻り、プリントされた写真と、「野の花」の数冊の植物図鑑の全ページをめくって、照合を開始しました。
図鑑の各ページには、メモした付箋が竹の子のように飛び出していました。
図鑑に印刷された花よりも、本物の方がもっともっと色鮮やかなので、ページを行ったり来たりしながら、迷って決められない種類もありました。
巡り合った花の中の一つに、ヤナギランという種があります。
この時期この場所で、たった一本だけ草中にあり、その様子は、草丈40cmほどの先端に、小さな紅色の蕾がついていて、その頂点からすそへフレアスカ-トのように、赤味を帯びたピンク色の鮮やかな花が、次第に大きくなりながら広がって咲いていました。
1mほどの盛土の土手の上に、そのたった1本の紅色ヤナギランが、草緑の中に色鮮やかに咲いているのを見つけた時は、一瞬胸が高鳴り、何故か人を引きつける、この美しい野の花との出会いに心がはずみました。
こうして、約15種類の花の特定はどうにかできましたが、素人には判り難い、種子になるまでの観察がまだ残されています。
時間を見つけ、2週間置きに、それぞれの場所を訪れ、季節の移り変わりを見続けました。その内のいくつかを紹介いたします。

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ハマエンドウ
赤紫色の可憐な花が、次から次へと咲き、花の時期はその気配もありませんでしたが、終わった後に、小さな小さなさやがガクの中で生まれていました。
成熟する頃には、2~3ミリほどの、黒くまるい豆状の種子になっていました。

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エゾカワラナデシコ
小柄で茎の細い華奢な草花ですが、花は案外大きく、先が細く割れていて、5弁の、目立つピンク色の花をつけ、群生して咲いています。
花が終わると、花弁の付け根のガクが、紡錘形の筒状に成長し、その中に、縦細の、黒い小さな種子が出来上がります。

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ツリガネニンジン
草丈80cmくらいで、まっすぐ伸びた茎に、薄紫色をした釣り鐘状の、小さな花が4~5個ずつ群れて咲き、これが縦に等間隔に並んでいます。
草の色と同系色ということで、あまり目立ちませんが、繁殖力は強く、道端や草地のあちこちに咲いています。
葉が朝鮮ニンジンに似ているということでこの名がつきました。
ガクが次第に成長して、中に肌色の小さな種子が出来上がります。

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コウゾリナ
草丈1mほどの茎の先端に、小型の黄色い花を咲かせます。
花は、一見タンポポによく似ています。
タンポポと同じ、キク科の植物で、おなじみの綿毛の先に、薄茶色の小さな種子がついていて、風に運ばれて飛んでいきます。

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ハマナス
塩害と強風に強い、生命力旺盛な植物ですが、雅子妃殿下の皇室の花としても指定されています。
周知のように、通常種は、薄紅色の比較的大きな八重状の鮮やかな花が咲いた後、赤い実がなりますが、この中に肌色の2ミリ程度の種子ができます。

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エゾゼンテイカ(エゾカンゾウ)
おなじみの、橙色の大きな花が咲きますが、他のユリ科の花と違って、茎に葉がつかないので、花が終わった時は、電信柱の上に、堅いラグビ-ボ-ルを立てて置いたような感じになります。
この殻の中に5ミリほどの黒光りする種子ができます。

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エゾノカワラマツバ
花は、一寸見た目には、海綿状の淡黄色の、ふわふわした塊に見えます。
よく見ると、十文字状の、小さな花弁が袋状になったのが集合して、大きな形を形成しています。
これも花が終わりますと、小さな黒い種子が、一見、クモの巣状集合体に変化した花の名残の中に、たくさん熟してきます。

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ヤナギラン
冒頭に書いたように、大変美しい花ですが、ランの仲間ではなく、その美しさからこの名がついたのと、葉がヤナギの葉に似ていることに由来しています。
花が終わった後、何度か足を運びましたが、種子になる様子がよく判りません。
茎の周りに、ガクはそのまま残っていますが、変化はありません。
9月になっても判らないので、この花の周りをぐるっと回って、ジックリ観察してみました。
たくさんあるガクの内、小さな裂け目のあるのを見つけ、その1本を取り上げ、解体してみました。
中に、白く細い繊維が束ねられていて、それをほぐすと、真綿のように広がりました。
それぞれの繊維の先端には、小さな、小さな薄茶色の種子がついていました。
時期が来ると、この細いガクがはじけて、中から真綿が飛び出し、しばらくは茎に絡んで成熟を待ちますが、やがて頃あいの風に乗って、次の繁殖地へ飛び出すメカ二ズムのようでした。
タンポポよりもず~と繊細なこの種子が、風の旅をしてどこかに土着したとしても、果たして、芽を出せるのだろうかと疑いたくなるような心細さでした。

こうして採取された種は、昨年土に撒かれ、今年の春には芽を出し始めました。
種類ごとに50cm四方の平皿に植えられた種は、芽の出方も、育ち方も夫々に特徴がありました。
マメ科のハマエンドウは、茎ばかりひょろひょろ伸びて、横に這い出したり、生命力の強いハマナスは、イチゴの葉に似た、濃い緑色の葉が出ていたり、キタノコギリソウは、その名の通りギザギザの細長い葉が、出ていたりして、発芽時でもう大人と同じ顔を持っていたり、まだ幼芽では判らないものやら千差万別でした。
これらの芽を選別して、ピンセットで、小さなポットに1~2株移植したものを多数作り、ある程度成長したら、野性に戻してやろうというわけです。
ヤナギランは、特に期待をして待っていましたが、心配していたとおり発芽しませんでした。今夏、また同じ場所に行ってきましたが、北辺の厳しいひと冬を過ごしたヤナギランは、花はまだ咲いてはいませんでしたが、元気な姿で迎えてくれました。
今年こそは、分身を与えてくれるよう、お願いをしてきました。
過日のテレビで、サハリンの野に美しく群れ咲いているヤナギランを放映していました。
本当に、吹けば飛ぶように繊細な種を持つ草花でも、環境さえ整えば、山野の中に見事に育つ証を見て、とてもうれしく思いました。
もしかしたら、北西の風に乗って、サハリンから辿りついたのが、私の見つけた北辺のヤナギランかもしれません。
きっとそうだと思います。
そう信じることで、生命の素晴らしさを知らされ、その大地に私達もほんの小さなこれらの生命と共に生かされていることを強く感じました。
今年も、また、何度か北辺の地に足を運び、野の花の観察を続けるつもりでおります。

平成5年7月起稿
小 杉 忠 利

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